膝蓋骨脱臼について。膝蓋骨は、いわゆる「膝のお皿」と呼ばれる骨で、膝関節の前面に位置し、大腿骨と脛骨の間を滑るように動きます。膝蓋骨脱臼は、この膝蓋骨が正常な位置から外れてしまう状態を指します。多くの場合、外側(体の外側)に脱臼します。
膝蓋骨脱臼の原因
膝蓋骨脱臼は、大きく分けて以下の2つの要因が組み合わさって起こることが多いです。
- 素因(生まれつきの要因):
- 大腿骨顆部(だいたいこつかぶ)の形状異常: 大腿骨の膝関節を構成する部分の形状が、膝蓋骨を安定させるのに不利な形をしている場合があります。特に、大腿骨顆部外側の隆起が低いと、膝蓋骨が外側にずれやすくなります。
- 膝蓋骨の形状異常: 膝蓋骨自体の形状が、大腿骨との適合が悪く、脱臼しやすい形をしている場合があります。
- 膝蓋靭帯(しつがいじんたい)の付着位置異常: 膝蓋骨と脛骨を結ぶ膝蓋靭帯の付着位置が通常と異なり、膝蓋骨を安定させる力が弱くなっている場合があります。
- X脚: 膝が内側に弯曲しているX脚の場合、膝蓋骨が外側に引っ張られやすく、脱臼のリスクが高まります。
- 関節の過剰な柔軟性: 全身の関節が柔らかい場合、膝関節も不安定になりやすく、脱臼のリスクが高まります。
- 外力(外傷や動作):
- 膝をひねる動作: ジャンプの着地時や急な方向転換など、膝をひねる動作によって膝蓋骨が外れることがあります。特に、膝を伸ばした状態(膝が伸びきった状態)で外力が加わると脱臼しやすくなります。
- 大腿四頭筋(だいたいしとうきん)の急激な収縮: 太ももの前面にある筋肉(大腿四頭筋)が急激に収縮することで、膝蓋骨が外側に引っ張られ、脱臼することがあります。
- 直接的な外力: 膝に直接強い衝撃が加わることで、膝蓋骨が脱臼することがあります。
これらの要因が単独で作用するだけでなく、複数の要因が重なって脱臼を引き起こすことがほとんどです。特に、素因を持つ人が、上記のような外力が加わることで脱臼することが多いです。
膝蓋骨脱臼の特徴
- 発生年齢: 10代の女性に多く見られます。これは、成長期で骨や関節が発達途上であることや、女性は男性に比べて骨盤が広く、X脚になりやすいことなどが関係していると考えられます。
- 脱臼方向: ほとんどの場合、膝蓋骨は外側に脱臼します。
- 症状:
- 激しい痛み: 脱臼時には強い痛みを感じます。
- 膝の腫れ: 脱臼に伴い、膝関節内に血液が溜まったり、炎症が起きたりして、膝が腫れます。
- 膝の変形: 膝蓋骨が正常な位置から外れているため、膝の形が明らかに変わって見えます。
- 膝の可動制限: 痛みや腫れのために、膝を動かすことが困難になります。
- ロッキング: 脱臼した膝蓋骨が元の位置に戻らない場合、膝が動かなくなることがあります(ロッキング)。
- 不安定感: 一度脱臼すると、その後も脱臼を繰り返すことがあります(反復性脱臼)。反復性脱臼になると、膝に不安定感を覚え、日常生活やスポーツに支障をきたすことがあります。
脱臼後の経過
脱臼した膝蓋骨は、自然に元の位置に戻ることもありますが、多くの場合、医療機関で整復(元の位置に戻すこと)が必要です。整復後、ギプスやサポーターなどで固定し、リハビリテーションを行います。
反復性脱臼について
一度膝蓋骨脱臼を起こすと、約20〜50%の確率で反復性脱臼に移行すると言われています。反復性脱臼になると、わずかな外力や日常動作でも脱臼を起こしやすくなり、日常生活やスポーツ活動に大きな支障をきたします。そのため、初回脱臼後の適切な治療とリハビリテーションが非常に重要です。
膝蓋骨脱臼は、放置すると慢性的な膝の不安定感や痛みを引き起こす可能性があります。膝に違和感を感じたら、早めに整形外科を受診するようにしましょう。